2019年3月、日本とフィリピンの間で「特定技能(Specified Skilled Worker: SSW)」に係る協力覚書(二国間取決め)が締結されました。これを受け、フィリピン労働雇用省(DOLE)は、フィリピン人労働者の日本への送り出しに関する具体的な運用ルールを定めたガイドラインを発行しました。
このガイドラインは、送出機関(RA)の役割、海外雇用証明書(OEC)の発行条件、さらには「直接雇用」の制限など、フィリピン人特定技能生を受け入れる全ての企業が遵守すべき法的根拠となっています。
本記事では、フィリピン労働雇用省(DOLE)が公表した「省令201号(Department Order No. 201)」およびその実務細則である「201-A号」の全条文を、実務に即して日本語訳しました。なお、2026年現在の運用に基づき、当時の組織名(POEA/POLO)は現在の呼称(DMW/MWO)に読み替えて参照してください。
労働雇用省令201号:特定技能外国人の送り出しに関する基本指針
本ガイドラインは、フィリピン政府と日本政府との間の協力覚書に基づき、特定技能外国人の適正な募集および配置を確保するために発行されたものです。
Ⅰ 適用範囲
本ガイドラインは、2018年12月25日時点で日本政府によって特定された職業分類、および「特定技能外国人」の在留資格制度の運用方針に定められた全ての職種に適用されます。
Ⅱ 用語の定義
- 受入れ機関(AO):特定技能外国人と雇用契約を締結する日本の公的機関または民間組織。
- 認定(Accreditation):フィリピン移住労働者省(DMW/旧POEA)が、送出機関を通じて労働者を募集・雇用するための権限を受入れ機関に付与すること。
- 海外雇用証明書(OEC):特定技能外国人に発行される出国許可書類。DMWまたはMWO(旧POLO)によって適正に処理されたことの証明となります。
- MWO(旧POLO):日本に設置されているフィリピン大使館・領事館の「移住労働者オフィス(Migrant Workers Office)」。旧称POLO。
- 採用契約(Recruitment Agreement):受入れ機関と送出機関の間で、労働者の採用・雇用に関する権利と義務を定義した契約。
- 登録支援機関(RSO):特定技能1号の支援計画を実施するために、受入れ機関から委託を受ける組織。
- 送出機関(RA):DMW(旧POEA)から認可を受け、特定技能外国人の募集・配置を正式に許可されたフィリピンの人材紹介会社。
- 特定技能外国人(SSW):
- 特定技能1号:相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事。通算5年まで滞在可能。
- 特定技能2号:熟練した技能を要する業務に従事。滞在期間の更新が可能で、家族の帯同も認められる。
- 支援計画(Support Plan):特定技能1号が日本で安定的に生活できるよう、受入れ機関または登録支援機関が提供する生活支援の計画。
Ⅲ 送出機関の役割
DMW(旧POEA)は、認可された送出機関のリストおよび詳細情報を日本の関係省庁に提供し、透明性の高い募集プロセスを維持します。
Ⅳ 受入れ機関の認定手続き
日本の法務省によって承認された支援計画に加え、受入れ機関はDMW(旧POEA)の規則に基づき、送出機関との間で「本人/雇用主」としての認定を受ける必要があります。これには、後述する書類審査と検証が含まれます。
Ⅴ 特定技能外国人の資格要件
特定技能として派遣される労働者は、以下の条件を満たさなければなりません。
A. 特定技能1号:
- 18歳以上であること。
- 必要な知識または経験を評価する「技能試験」に合格していること。
- 「日本語能力試験」に合格し、日本での生活および業務に必要な能力を証明すること。
- 出発予定日から少なくとも6ヶ月以上有効なパスポートを所持していること。
※「技能実習2号」を良好に修了した者は、技能試験および日本語試験が免除されます。
B. 特定技能2号:
- 18歳以上であること。
- 熟練した技能を評価する試験に合格していること。
- 出発予定日から少なくとも6ヶ月以上有効なパスポートを所持していること。
Ⅵ 海外雇用証明書(OEC)の発行
- 送出機関を通じて派遣される特定技能外国人は、DMWの電子契約システム(LBECS)を通じたオンライン登録の対象となります。
- 直接雇用の制限:受入れ機関が送出機関を介さずに直接雇用できる特定技能外国人は、最大5人までに制限されます。これを超える場合は、フィリピンの送出機関と提携しなければなりません。
- 日本国内で転籍(受入れ機関を変更)した特定技能外国人は、MWO(旧POLO)に新しい契約書を提示し、認証を受ける義務があります。
- 日本に在留中の技能実習生が特定技能へ移行する場合も、MWOへの報告と契約の検証が必要です。
- フィリピンへ一時帰国した後に、元の受入れ機関に再雇用される場合は、復帰労働者(Balik-Manggagawa)としての手続きに従います。
Ⅶ 料金および費用の徴収制限
フィリピンの労働法規に基づき、労働者の保護を目的に以下の厳格なルールが定められています。
- 募集・配置費用の徴収禁止:特定技能外国人から、日本への派遣に関して直接的・間接的を問わず、いかなる形式の料金も徴収することは禁止されています(いわゆる「プレイスメント・フィー」の禁止)。
- 不当な給与控除の禁止:日本の法律で定められた税金や社会保険料などの許容される控除を除き、いかなる目的であっても労働者の賃金から控除を行ってはなりません。
- 費用の負担区分:送出機関および受入れ機関に課される事務手数料や諸費用は、DMWの規則に基づき、適切に各機関が負担しなければなりません。
労働雇用省令201-A号:MWOにおける契約検証ガイドライン
2019年8月に発行された201-A号は、日本にあるMWO(旧POLO)が、受入れ機関からの提出書類を検証する際の具体的な基準を定めたものです。
Ⅰ 検証基準(Verification Criteria)
MWOは、以下の観点から審査を行います。
- 受入れ機関および送出機関の法的地位(登記簿謄本による確認)。
- 貸借対照表や納税証明書による財務能力の証明。
- フィリピンの労働法(DMW規則)および日本の労働法への準拠。
- 日本人との同等賃金:同様の業務に従事する日本人労働者と同等以上の給与水準であることの証拠(給与説明書など)。
- 過去にフィリピン人労働者との間で係争が発生していないか、発生している場合は解決されていること。
- 労働担当官(Labor Attaché)によるインタビューや現地訪問の結果。
Ⅱ 適用範囲
本検証ガイドラインは、特定技能の対象となる全ての職種、および技能実習生からのビザ変更希望者、受入れ機関を変更(転籍)する特定技能外国人に適用されます。
Ⅲ 提出書類(Document Requirements)
認定の初期・更新申請において、受入れ機関は以下の書類をMWOへ郵送(レターパック等)で提出する必要があります。
- 申請書(SSW Form No. 06)
- 営業許可証の写しおよび英訳
- 会社概要(フィリピン人雇用数、財務状況を含む:SSW Form No. 02, 02A)
- 会社登録(登記簿謄本)の原本および英訳
- 日本人と同等賃金であることの説明・証拠書類(SSW Form No. 01B)
- 採用契約書(DMW/POEAテンプレートを使用し公証されたもの)
- フィリピン送出機関のライセンスコピー
- 委任状(代表者以外が署名する場合:SPA)
- 求人票(SSW Form No. 01)
- 給与明細案(SSW Form No. 01-2019V1)
- 雇用契約書(標準テンプレート)
※派遣会社による受入れの場合は、別途「派遣免許証」や「クライアントとの派遣サービス契約書」の英訳が必要です。
▽フィリピン人雇用・実務管理ガイド▽
▼雇用主が知っておくべき法的義務と慣習
▼現地視察・面接・手続きのための滞在知識
まとめ:コンプライアンス遵守が安定雇用の鍵
フィリピンの労働雇用省令201および201-Aは、労働者の権利を保護するために非常に厳格な内容となっています。特に「費用徴収の禁止」や「直接雇用の人数制限」は、意図せず違反してしまうと、その後の認定が取り消されるなどの重大なリスクを伴います。
2026年現在、フィリピン人労働者の需要はますます高まっています。最新の省令を正しく理解し、MWO(旧POLO)との連携を密にすることが、優秀な特定技能外国人を確保するための近道です。
💡 筆者の視点:
フィリピン側のルールは頻繁にアップデートされます。当ブログでは今後も、DMW(移住労働者省)の最新通知や現場でのトラブル事例を元に情報を更新していきます。わかりにくい用語や手続きがあれば、気軽にご相談くださいね。



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