フィリピン

フィリピンの寄付金課税・譲渡税

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フィリピンでの個人資産の移転や、現地法人の運営において密かに関わってくるのが「贈与税(Donor’s Tax)」と「寄付金」のルールです。

フィリピンでは包括的税制改革(TRAIN法)の導入によって贈与税率が劇的にシンプルになった一方、法人が行う寄付については税務上の損金算入に厳格な上限が設けられています。さらに、会社法上では「法人の政治献金は全面禁止」という強力なコンプライアンスの壁も存在します。

今回は、知らないと後からBIR(内国歳入庁)によるペナルティや法律違反のリスクを課される、フィリピンの贈与税・寄付金周りの重要規制を新旧条文の比較を交えて徹底的に解説します。

 

 

フィリピンにおける贈与税(Donor’s Tax)について、内国歳入庁(BIR)の旧税法と税制改革(TRAIN法)適用後の新法を条文に沿って比較・解説します。条文解説内の「灰色ボックス」の部分が新法による変更・追加点です。

 

フィリピン贈与税(Donor’s Tax)の新旧条文比較

CHAPTER II:DONOR’S TAX(贈与税)

SEC. 98. 課税対象(Imposition of Tax)

(A)第99条に規定されている通り、居住者または非居住者による財産の譲渡(贈与)が行われた場合、その計算された贈答品に対して税金が評価・徴収され、支払う義務が生じるものとします。

(B)この課税は、譲渡が信託によるものか否か、贈り物が直接的か間接的か、また財産が不動産(有形)か動産(無形)かに関わらず一律に適用されます。

 

SEC. 99. 寄贈者が支払うべき税率(Rates of Tax Payable by Donor)

(A)原則として、各暦年の税金は、その暦年中に行われた正味譲渡物(総合計譲渡物:total net gifts)の金額に基づき、累進税率の表に従って計算されるものとします。

【新法による修正】
(A)原則として、各暦年の贈与税は、暦年中に行われた贈与のうち25万ペソの免税枠を超える金額に対して、一律6パーセントの税率が課されます。

 

(B)受贈者(Donee)が「第三者(親族以外)」の場合は、寄贈者(Donor)に対して正味譲渡物の30%という高いフラット税率が課税されます。※ここでの第三者とは、兄弟姉妹・配偶者・直系尊属・直系卑属、および4親等内の同族関係「以外」の者を指します。

【新法による修正】
(B)選挙運動を目的とした特定の候補者、政党、または連立政党への現金・現物出資(政治献金)については、修正された選挙法(Omnibus Election Code)の規定によって管理されるものとします。

 

(C)選挙運動を目的とした、候補者、政党、または政党の連合への現金または現物出資は、改正選挙法によって規定されるものとします。

【新法による修正】
(C)項目削除(Bに統合)

 

SEC. 100. 適正価格以下で譲渡した場合のみなし贈与規定(Transfer for Less Than Adequate and Full Consideration)

第24条(D)で規定される不動産以外の資産において、金銭または金銭的価値が見合わない「不当に低い対価(適正価格未満)」で移転が行われた場合、その資産の公正市場価値(時価)と実際の対価との差額は、贈与とみなされます。この差額分は、暦年の課税対象贈与額の計算に含まれなければなりません。

【新法による追加項目】
ただし、その売却や交換、財産の譲渡が、通常の業務において「純粋な善意(bona fide)」かつ「アームズレングス原則(arm’s length:対等な第三者間取引の条件)」で行われ、かついかなる寄付の意図もない取引であったことが証明される場合は、対価が適正であったとみなされ、みなし贈与の対象外となります。

 

SEC. 101. 特定の譲渡・寄付の免税(Exemption of Certain Gifts)

以下の譲渡または寄付については、本章の贈与税が免除されます。

(A)居住者による譲渡(贈与)の場合

(1)実子または養子の結婚の祝賀、あるいは結婚後1年以内に両親から贈られる持参金や贈与物のうち、最初の1万ペソまでの範囲。

【新法による修正】
(1)以下の機関・組織への譲渡。

  • 中央政府、または中央政府が使用するための譲渡
  • 政府機関による営利目的でない団体への譲渡、または当該団体が使用するための譲渡
  • 地方自治体(行政的小区域)への譲渡

 

(2)中央政府、地方自治体、または営利を目的としない政府機関への譲渡。

(3)教育・慈善・宗教・文化・社会福祉・認定NGO・信託または研究機関への譲渡。ただし、贈与額の30%を超える部分を、受贈者側の管理費(管理目的)として使用しないこと。

【新法による修正】
(2)以下の教育、慈善、宗教、文化、社会福祉法人、認定NGO、信託、または研究機関への譲渡。ただし、当該贈与(譲渡物)の30%を超えない部分に限り、管理目的での使用が認められます。

※免税対象となる「非営利の教育・慈善法人、認定NGO、信託・研究機関」とは、報酬を受け取らない受託者によって管理され、配当を支払うことなく、全収入を定款に定められた目的の達成および促進に充てる組織(学校や大学、慈善財団など)である必要があります。

 

(B)フィリピン市民ではない非居住者による譲渡(贈与)の場合

(1)中央政府またはその政府機関(営利目的でないもの)、および地方自治体に対して行う譲渡、あるいはそれらが使用するための贈与。

(2)教育、慈善、宗教、文化、社会福祉法人、信託、研究機関への贈与。ただし、(A)と同様に贈与額の30%を超える部分を管理費として使用しないことが条件となります。

 

(C)外国に支払われた贈与税の税額控除(外国税額控除)

(1)概要:贈与時点でフィリピン市民または居住者であった寄付者が、外国の税務当局に対して贈与税に相当する税金を支払った場合、フィリピン側で課される贈与税からその額を控除(クレジット)することができます。

(2)控除額の制限:ただし、控除できる金額には以下の制限が設けられています。

(a)特定の国に支払われた税金の控除額は、フィリピン側の贈与税額に「その国にある純贈与額が純贈与額全体に占める割合」を掛けた額を超えてはなりません。

(b)控除の総額は、フィリピン国外にあるすべての純贈与額が純贈与総額に占める割合に応じた税額を超えてはなりません。

 

SEC. 102. 財産による贈与の評価(Valuation of Gifts Made in Property)

贈り物が金銭ではなく財産(現物)で行われる場合、贈与が行われた時点の「公正市場価値(時価)」を贈与額とみなします。対象が不動産である場合は、第88条(B)の評価規定が適用されます。

 

SEC. 103. 申告書の提出および納税(Returns and Payment of Tax)

(A)要件:贈与による資産移転を行う者(第101条で免税される者を除く)は、BIRの規定に則り、以下の情報を記載した申告書を重複して(正副2部)提出する必要があります。

  1. 暦年中に行われた純贈与の計算に含まれる各贈与の明細
  2. 請求し認められる控除額
  3. 同じ暦年中に行われた過去の純贈与額
  4. 受贈者(Donee)の氏名・名称
  5. その他、法律や規則で要求される情報

(B)提出および納税の期限・場所:贈与税の申告書は、贈与が行われた日から30日以内に提出し、同時に税金を納付しなければなりません。

原則として、贈与が行われた管轄区域の公認代理店銀行(AAB)、歳入地区役所(RDO)、歳入徴収官、または正式に許可された会計窓口に提出・納税します。フィリピン国内に法的居住地がない場合は長官室(Commissioner’s Office)へ、非居住者からの贈り物の場合は、居住国のフィリピン大使館または領事館、あるいは長官室へ直接提出することができます。

 

SEC. 104. 定義(Definitions)

本章において「総財産」および「贈り物」には、有形・無形、またはそれらが混在しているかを問わず、実在するすべての動産および不動産が含まれます。

ただし、贈与者が「非居住外国人」である場合、フィリピン国外にある実財産や私的財産は総財産(総贈与額)には含まれません。フィリピン国内に所在するとみなされる資産の定義は以下の通りです。

  • フィリピンの法律に準拠して組織・設立された企業の発行する株式、債券
  • 業務の85パーセント(85%)以上がフィリピン国内に所在する外国企業の株式や債券
  • フィリピン国内で事業所を取得した外国企業の発行する株式や債券
  • フィリピンで設立されたパートナーシップ、事業、産業における株式や権利

※ただし、相手国との間で無体財産権に対する相互免除(レシプロシティ)の法律がある場合は、非居住外国人の無体財産権に対するフィリピン側での課税が免除されるケースがあります。

「不足額(Deficiency)」の定義:
(a)本章によって課されるべき正しい税額が、納税者が申告書に記載した税額を上回る場合のその差額(過去の修正査定や減額などを考慮した後の金額)。
(b)申告書に税額が示されていない場合、正しい税額が、過去に不足額として査定された金額を上回る場合のその差額。

 

【一目でわかる】贈与税の新旧税率比較表

税制改革(TRAIN法)の導入により、これまで親族間・第三者間で複雑に分かれていた累進税率が、非常にシンプルな「一律税率」へと変更されました。

旧法(累進税率 + 第三者30%) 新法(一律税率)
正味贈与額(ペソ) 税率 / 税額 正味贈与額(ペソ) 税率
10万以下 免税 25万以下 免税
10万超 ~ 20万以下 0 + 2%
20万超 ~ 50万以下 2,000 + 4% 25万超の部分 一律 6%
50万超 ~ 100万以下 14,000 + 6%
100万超 ~ 300万以下 44,000 + 8%
300万超 ~ 500万以下 204,000 + 10%
500万超 ~ 1000万以下 404,000 + 12%
1000万超 1,004,000 + 15%
親族以外の第三者間の贈与 一律 30%

 

法人の寄付金における損金算入のルール

フィリピンの税務実務において、法人が行った寄付金を損金(控除対象経費)として処理する場合、その寄付先によって「全額損金」になるか「一定の上限(5%)が課されるか」が分かれます。

 

1. 全額損金算入が認められる「指定寄付金」

国家優先計画(National Priority Plan)に基づき、政府機関等へ行う公益性の極めて高い寄付については、例外的に支払額の全額を損金算入することが認められています。対象となる主な機関は以下の通りです。

  • 国家経済開発庁(NEDA)による国家優先計画に従って行う政府機関への寄付
  • 特定の外国機関および国際組織への寄付
  • 特定の政府認定非政府組織(NGO)への寄付

 

2. 限度額(5%)が適用される「一般寄付金」

上記に該当しない一般的な教育、慈善、宗教、科学、文化などの社会福祉法人や機関への寄付については、法人の場合は該当事業年度の課税所得(寄付金控除前の純利益)の5%を超えない範囲に限り、損金算入が認められます。

 

【注意】フィリピン会社法による法人の政治献金禁止規定

税務上の損金該当性以前の問題として、フィリピンでは会社法(Revised Corporation Code)の規定により、法人が政治的な寄付(献金)を行うこと自体が法律で厳格に禁止されています。

TITLE IV:POWERS OF CORPORATIONS(会社の権限)

Sec. 36. Corporate powers and capacity(会社の権限および能力)

本法律に基づいて設立されたすべての企業は、下記の権利能力を持っています。

(中略)

9. 社会福祉や病院、慈善、文化、科学、市民、またはそれらと同様の目的のための寄付を含む、合理的な寄付をすること。

ただし、国内外のいかなる法人(企業)も、政党または候補者の援助、あるいは党派的な政治活動の目的のために、いかなる寄付をすることもできません。

このように会社法で「国内外問わずすべての法人の政治献金は違法」と明記されているため、法人が特定の候補者や政党を資金面で援助することはできません。現地で事業を運営、または企業の実務に関わる際はコンプライアンス遵守のために必ず覚えておくべき最重要ポイントです。

 

フィリピンのビジネス・法律・税務に関する情報を網羅

今回解説した贈与税や寄付金のルール、会社法による規制など、フィリピンの税務・法務は非常に複雑で、知らないとBIR(内国歳入庁)から多額のペナルティを課されるリスクがあります。当ブログでは、現地で安全にビジネスや就職活動を行うためのリーガル知識を一本のまとめ記事に集約しています。

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