最近登録した派遣会社から、電話があって、「お仕事の相談」と言われたティケイジイです。
派遣会社が仕事の紹介じゃなくて相談と言ってた。何か法的拘束があるんだっけ?
— ティケイジイ@浅草/ASEANをお散歩するアセアニスト (@tiger_phili) May 25, 2020
「紹介」ではなく、「相談」と言っていたのははやり、法的に色々と問題があるようで、今日はその件について深堀していきます。
派遣で「面接」等は禁止されている
厚生労働省によると派遣契約の締結にあたって、下記が原則として禁止されています(紹介予定派遣を除く)。
- 派遣労働者を指名すること
- 派遣就業の開始前に派遣先が面接を行うこと
- 履歴書を送付させること、等
上記を類推すると、派遣社員を若年者に限ること、性別を限定すること、適性検査を実施することも、派遣労働者を特定することになるので、やってはいけないことになるでしょう。
また、労働者派遣法第26条6項でも、事前面接を「派遣労働者を特定することを目的とする行為」とみなして、下記のとおり努力規定を設けています。
「努めなければならない」となっているので、厳密には禁止ではないのですが、派遣元の派遣の許可が取り消しになる等の不利益を被ることになるでしょうね。
私が受けた冒頭の「お仕事の相談」事件ですが、お仕事の紹介と言ってしまうと、紹介した先の企業が合否を判定するようにとらえられるので、あえて「お仕事の相談」とオブラートにつつんでいるのでしょう。
なぜ派遣契約で事前面接は禁止されているの?
もし、派遣契約で事前面接等、派遣労働者を特定する行為が行われると、①職業能力以外の要素で採用が決まり、労働者の就業機会が不当に狭められたり、②派遣先と派遣労働者との間に雇用関係が成立し、職業安定法で禁止されている労働者供給事業に該当する可能性があるため、事前面接等は禁止されています。
ではなぜ職業安定法は、労働者供給事業を禁止しているのでしょうか?
厚生労働省によると労働者供給事業の原則禁止の趣旨を下記のように説明しています。
- 労働者の自由意思を無視して労働させる強制労働にあたる
- 支配従属関係を利用して、本来労働者に帰属すべき賃金を業者がピンハネする、いわゆる中間搾取が発生する
人材派遣業は、どちらにせよ、賃金をピンハネしているものなので、「派遣事業」と「労働者供給事業」はどう違うんだという論争は度々ソーシャルメディア等で議論されています。
それでも慣習的に実施される「会社見学」「顔合わせ」
そんな事前面接の禁止ですが、なぜか「会社見学」や「顔合わせ」という名目で、事前に派遣先担当者とフェイストゥーフェイスで会う機会が就業前に設けられます。
まあ、会ったこともない人と一緒に仕事をするのは不安という気持ちはわかります。ただ、本当に顔合わせ程度に限られるので、この顔合わせを元にした、採用の合否判断は禁止されています。
なので、この「会社見学」「顔合わせ」には、履歴書が多くの場合、不要になっているはずです。もし、履歴書を見ながらの顔合わせになった場合は、「あれ、これって事前面接、労働者を特定する行為じゃ。。。」とやんわりとつぶやいてみましょう(笑)。
本音と建て前
法律でがんじがらめにされている事前面接等の禁止(条文上は努力規定ですが)。実は現状は、下記のとおり悲惨なものです。
- 「会社見学」「顔合わせ」を、普通の求人採用の「面接」と考えている派遣先企業が多い
- 事前面接等、労働者を特定する行為が禁止であることを知らない会社が多い
- 派遣元、派遣先の間で事前に履歴書や職務経歴書をシェア
素性のわからない派遣労働者を供給してもらうことに不安を抱える派遣先企業の気持ちもわかりますが、法律で決まっているので、なあなあでは駄目なんじゃないかなーと個人的には思います。
派遣先のニーズ、派遣先担当者がどんな人物を採用したいと思っているのかをプロファイリングし、ばっちりと希望のスペックにあった派遣労働者を派遣先に供給するのが派遣元営業担当者の仕事なので、そのあたりはちゃんとやってもらいたいですね。
実際に行われている「顔合わせ」という名の面接
それでは、実際に「会社見学」「顔合わせ」の際にどのようなやりとりがされているか下記で例示します。
- 前職の離職理由を聞かれる
- 将来のキャリアプランを聞かれる
- 長所、短所を聞かれる
- 通勤時間を聞かれる
実はこれらはいずれも、「派遣労働者を特定する行為」にあたるためNGです。しかしながら、往々にして「会社見学」「顔合わせ」で派遣先担当者から求職者に聞かれているのが実情です。
派遣元人材会社からは「会社見学」「顔合わせ」と言われて、派遣先企業に連れてこられますが、実際はそういうことですので、人材会社の言葉を鵜呑みにして、軽い気持ちで臨むのではなく、正式な面接と思って「会社見学」「顔合わせ」には行ったほうが良いでしょう。
不採用の場合の断り文句
本音と建前の間で、もがかざるを得ないのが派遣元の人材派遣会社。事前面接等が禁止されているとはいえど、実務上は「会社見学」の後に、派遣先担当者から「不採用」の連絡が来る場合が多々あります。
ここで馬鹿正直に求職者に「不採用」でしたなどと言うと、まさに労働基準法違反になってしまうので、人材会社はオブラートにつつんで、結果を求職者に通知します。「求人案件がストップして」のように、あたかもその人が原因で不合格になったことの無いような言い方をしますが実際は、「会社見学」「顔合わせ」という面接の結果、不採用になったとみてよいでしょう。
人材派遣会社の対応があまりにもひどかった場合
少しの粗を見つけてワーワー騒ぎ立てるのではなく、人材派遣については柔軟に対応したほうが、求職者のためだと私は思っていて、実質不採用であっても、求人案件は少なくないので、次の案件や別の派遣会社に乗り換えれば良いだけです。不毛なことに時間を費やすよりも前を見たほうが気持ち的にも楽です。
ただ、人材会社の対応があまりにもひどい場合は、下記のとおりいくつか救済措置も用意されているので、覚えておきましょう。
- 職業安定法第44条違反による刑事告訴
- 労働基準法第6条違反による刑事告訴
- 「雇用関係に関する勧告」違反による国際労働機関(ILO)への提訴
- 国際連合人権委員会への申し立て
派遣労働者としての考え方
新卒採用や中途採用と異なり、自分の一生がかかった就労ではないので、派遣先企業に対して、そこまで執着する必要はないと私は思っていて、前述したように、不採用でも何でも良いので、派遣元人材会社には、より良い案件を紹介(相談?)してくれればそれで良いと思っています。
そのためのリスクヘッジとしても、派遣会社は必ず複数社に登録し、数的アドバンテージをもち、「会社見学」「顔合わせ」=「面接」という暗黙の了解があることを肝に銘じて求職活動にのぞみましょう。
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