やはり、土曜日は昼まで寝ている病にかかっているティケージーです。朝一から外出しようと思ったのですが、不治の病にかかったようです(笑)。
さて、今日は、最近話題のクラウドファンディングについて、法律的観点から解説していこうと思います。あくまで個人的見解ですので、つっこみどころがたくさんあるかと思いますが、許してください。
クラウドファンディングとは
クラウドファンディングという言葉は群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、通常はインターネットを介して、多数の人々から少量の資金を調達することにより、プロジェクトまたはベンチャーが運用・運営資金を調達する資金調達方法の一つ。クラウドソーシングとオルタナティブファイナンスの一形態とも言えます。2015年にはこのクラウドファンディングにより世界中で340億米ドル以上が調達されました。
クラウドファンディングと同様のビジネススキームは、メールでオーダーする定期購読、特典付きのイベント、その他の方法でも実行できますが、クラウドファンディングという用語はインターネットを介して、資金を募ることを指します。この近代的なクラウドファンディングモデルは、一般に下記3パターンの当事者が登場します。
- 資金が提供されるアイデアまたはプロジェクトを最初に提案するプロジェクトイニシエーター
- アイデアをサポートする個人またはグループ(支援者)
- および アイデアを立ち上げのパーティーをまとめるモデレート組織(「プラットフォーム」)
クラウドファンディングは、芸術的および創造的なプロジェクト、医療費、旅行、コミュニティ指向の社会起業家プロジェクトなど、幅広い営利企業家ベンチャーに資金を提供するために利用されています。しかしながら、高価な癌治療のために資金を集め、そのまま姿をくらます等、詐欺的クラウドファンディングが存在することも事実です。
クラウドファンディングの種類
クラウドファンディングセンターの2014年5月のレポートによると、クラウドファンディングには下記のとおり報酬型と株式型の2つの主要なタイプがあるそうです。
報酬型(Rewards crowdfunding)
起業家が、負債や株式を犠牲にすることなく、ビジネスコンセプトに基づいた製品またはサービスを事前販売します。映画プロモーション、フリーソフトウェア開発、発明開発、科学研究、市民プロジェクトなど、幅広い目的に使用されています。
株式型(Equity crowdfunding)
支援者は、通常は初期の段階で、約束されたお金と引き換えに会社の株式を受け取ります。株式の形で資金を提供することにより、他の人々または組織が開始した取り組みをサポートする個人の集合的な取り組みです。
その他
その他、ソフトウェアトークン型、債務ベース型、訴訟型、寄付ベース型のクラウドファンディングの形態があります。
クラウドファンディング炎上、誹謗中傷
例えばガイドブックを出版する資金をクラウドファンディングで集めたとします。普通に目標金額を設定し、支援者を募るだけなのですが、日本人の性格上、下記のとおり、こまごましたことにクレームを付けがちです。
- プロジェクトイニシエーターがデザイナーに対するデザイン料を買い叩いた。
- デザイナーが持っている元データをよこせとプロジェクトイニシエーターがデザイナーを恫喝した(脅迫罪)。
- デザイナー料がデザイナーに支払われていない(債務不履行)。
- プロジェクトイニシエーターは数人いるうちのリーダーによる売名行為だ。
- 当初予定していた特別冊子がインターネット本だなんて聞いていない(詐欺罪)。
- イニシエーターメンバーは労働ビザをとっているのか(違法就労)。
- 募集のためのイベントの収益はどこにいっているのか。
細かいところを挙げればきりがありませんが、出版の場合にトラブルになる原因とすれば、だいたい上記に集約されるでしょう。最初は、小さい火種だったものが、徐々に大きくなり、デザイナーとイニシエーターの間の問題にまで、首をつっこみ、ツイッターなどのSNSで当該クラウドファンディングを誹謗中傷する人が増えてくるのも、現在の日本のクラウドファンディング界の特徴です。
特別冊子
上記クレーム例番号5番の「当初予定していた特別冊子がインターネット本だなんて聞いていない」に焦点を当ててみます。これは、当初メインの出版本とは別に、「特別冊子を贈呈」ということをイニシエーターが言及し、しかしながら、いざ特別冊子贈呈となると、それが紙媒体ではなくウェブ媒体であったという場面を想定しています。
まずは、このガイドブックについてのクラウドファンディングの法的性質というのは売買にあたるのか、投資にあたるのかを検証していきたいと思います。
例えば、今回のクラウドファンディングのプラットフォームがキャンプファイアーであった場合、下記のとおり利用規約に取引の性質が記載されています。
この購入型プロジェクトに当該ガイドブックが該当したなら、かなりシビアにガイドブックのクオリティが判断されます。支援金の対価としてガイドブックが提供されるのですから。
キャンプファイアーのもう一つのプロジェクトの種類にこの寄付型プロジェクトがあり、4項に「本寄付は、リターンの提供との間に、対価性を持つものではなく、リターンは、寄付への返礼として行われるものとします。」とあるので、当該ガイドブックがこの寄付型だったとすると、ガイドブックのクオリティや媒体種類はあまり問われないこととなります。
刑法の詐欺罪
ここで詐欺の定義があいまいですと、議論してもかみ合わないので、刑法の詐欺罪の条文と構成要件(犯罪が成立するための要件)をみてみましょう。
刑法第246条
- 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
- 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
詐欺罪の構成要件(出典:詐欺罪 – Wikipedia)
- 一般社会通念上、相手方を錯誤に陥らせて財物ないし財産上の利益の処分させるような行為をすること(欺罔行為(作為・不作為も問わない)又は詐欺行為)
- 相手方が錯誤に陥ること(錯誤)
- 錯誤に陥った相手方が、その意思に基づいて財物ないし財産上の利益の処分をすること(処分行為)
- 財物の占有又は財産上の利益が行為者ないし第三者に移転すること(占有移転、利益の移転)
- 上記1〜4の間に因果関係が認められ、また、行為者に行為時においてその故意及び不法領得の意思があったと認められること
ここで特別冊子にクレームをつける人は、「特別冊子が紙媒体と言ってた又はそう思い込ませるような状況を作っておいて、実際はウェブ媒体というのは、特別冊子が紙媒体と思って出資した支援者を欺いて、財物を交付させたので詐欺に該当する」という主張をしてきます。
では、実際、当該ガイドブックは「特別冊子は紙媒体です」と宣言していたのか?又は支援者が「特別冊子は紙媒体だ」と思わせるような状況を作り上げていたのか?論点はそこだと思います。
また、詐欺罪の構成要件には行為時に「故意及び不法領得の意思」がなければ詐欺罪は成立しないことになっています。
当該ガイドブックの特別冊子
当該ガイドブックの特別冊子がウェブ媒体であることについて、ある人が「特別冊子は紙媒体だと思っていた」とツイッター上でつぶやいたとしましょう。「思ってた」、つまり、当該ガイドブックプロジェクトのイニシエーターは具体的に「特別冊子は紙媒体です」とは、断言していなかったということになります。
特別冊子に対する欺罔行為
ただ、断言していなくても詐欺罪の構成要件である欺罔行為に作為、不作為は関係ないとありますので、他人がそう思うような状況を作り上げたのであれば、それは欺罔行為に該当します(Wikipediaには消極的欺罔という記載があります)。
この不作為の欺罔行為については、かなり微妙、微妙すぎるので、弁護士などの専門家に判断をゆだねるしかないです。
相手を錯誤に陥らせて
また、構成要件に「相手方を錯誤に陥らせて」という要件があります。これ一つとってもかなり専門的な知識や文献を調査するのに時間がかかりますので、専門家にまかせたいところですが、個人的には「特別冊子がウェブ媒体だと当初から知っていたなら支援者は支援しなかったのか」につきると思います。
私は、この当該ガイドブックにおけるクラウドファンディングの性質上、たとえ特別冊子が当初よりウェブ媒体であったとしても、ほとんどの支援者はお金を出して支援した可能性がかなり高いと思います。
よって、個人的ではありますが、この「相手方を錯誤に陥らせて」という詐欺罪の構成要件に当該例は該当しないと思います。
行為時の故意
刑法上の詐欺罪が成立するには構成要件上「行為者に行為時においてその故意及び不法領得の意思があった」ことが認めなければなりません。
イニシエーター(資金が提供されるアイデアまたはプロジェクトを最初に提案する者)が支援者を募る際に、明らかに高額の支援金や、明らかに不可能なプロジェクトに関して寄付を募る等していれば、不法領得の意思があるとみなされますが、これを立証するのはかなり至難のわざです。
刑法上の立証責任とは
こういった、詐欺まがいのクラウドファンディングに関しては、ツイッター上で「イニシエーター側が詐欺でない証拠を出せ」「被害者側が証明しろ」という不毛な議論が度々立ち上がるので、決着をつけたいと思いますが、日本の刑法上、刑事裁判では、被告人の犯罪を立証する責任は検察官にあります。
「疑わしきは罰せず」「疑わしきは被告人の利益に」という格言を聞いたことがあると思いますが、日本の刑法の考え方の一つであるというのは法学学習者であれば既知の事実です。
そして検察官が立証できなかった場合には、その犯罪行為の事実は無かったものとして、被告人に有利な判断をしなければならず、すなわち無罪の判決を言い渡すことになります。
【参考】裁判手続 刑事事件Q&A Q. 立証責任とは何ですか。
ツイッター上でのこの立証責任紛争は、議論してもらちがあきませんので、当該ガイドブックのイニシエーター側は「立証責任は詐欺罪を主張する方にあります。立証できないのであれば犯罪を匂わせる言動はやめてください。もっと法律を勉強してください。」と主張するのがベストです。
民法の詐欺
実は詐欺には刑法上の詐欺と民法上の詐欺があります。刑法は個人と国との関係、民法は個人と個人との関係です。下記は民法の条文です。
民法第96条
- 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
- 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
- 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
ちょっと民法典上の条文では、表記がうすいですね。そこで、この民事上の詐欺も法律学者や判例によって、下記のとおりその成立要件が決まっています。
表意者に対して欺罔行為をすること
作為や不作為を問わず、沈黙や単なる意見の陳述も状況によっては詐欺になりえます。ただ、信義に反し違法性が認められる程度のものでなければならず、日常の商取引において許容される程度の誇大な口説などは欺罔行為があるとまではいえないとされています。
【出典】
- 川井健著「民法概論1 民法総則 第4版」有斐閣、2008年3月、185頁
- 我妻栄・有泉亨・川井健著「民法1 総則・物権法 第2版」勁草書房、2005年4月、152-153頁
- 内田貴著「民法Ⅰ 第4版 総則・物権総論」東京大学出版会、2008年4月、77頁
- 我妻栄・有泉亨・川井健著「民法1 総則・物権法 第2版」勁草書房、2005年4月、153頁
この要件も刑法上の欺罔行為の要件と同じく、微妙ですのでここでは詳しく言及しないこととします。
相手方が錯誤に陥ること
これも刑法上の構成要件に似たようなものがありましたが、「特別冊子がウェブ媒体だと当初から知っていたなら支援者は支援しなかったのか」につきると個人的には思います。
ウェブ媒体であっても、当時の勢いからすると支援者は支援した可能性が高かったのではないでしょうか。
【参考】 川井健著「民法概論1 民法総則 第4版」有斐閣、2008年3月、185頁
欺罔行為をした者に故意(錯誤に陥らせて意思表示させようと意図)があること
これも刑法の構成要件と同じような成立要件です。当該イニシエーターがクラファンで支援者を集める際に、支援者をだます意図があったのでしょうか?
支援者をだます意図があったのであれば、随時状況報告や説明会は行わないと思いますので、そのあたりを深堀していって、立証する必要があります。
【参考】川井健著 『民法概論1 民法総則 第4版』 有斐閣、2008年3月、185頁
▽海外とのトラブル、民法と刑法▽
海外留学やワーキングホリデーで現地の語学学校とのトラブルになった際の法的問題
まとめ
ガイドブック作成のクラファン詐欺については、まさに「特別冊子がウェブ媒体だと当初から知っていたなら支援者は支援しなかったのか」に論点が尽きると思います。
ガイドブックの種類が紙媒体、ウェブ媒体うんぬんよりも、当該ガイドブックで何かをしたいというイニシエーターの情熱を支援したいと思った人がほとんどだと思います。したがいまして、詐欺の構成要件にあたる、申し込み時の支援者の錯誤は無いものとして、詐欺にはあたらない場合がほとんどだと個人的には思います。
他にもいろいろと名誉毀損や脅迫などにも言及したかったのですが、なんせ法律的観点から書いているので時間がかかり、今日はここまでとしたいと思います。かなり専門的な記事になってしまいましたが、まだまだ掘り下げるところもあり、素人からするとここら辺までの説明が限界かなと。
外部リンク ~民事上と刑事上の詐欺の違い~ ICO詐欺を例に
外部リンク お金を持ち逃げ!クラウドファンディングの詐欺やトラブルはあるの?( http://pr-calpis.jp/entry310.html)
参考図書
さらに掘り下げるのであれば一度専門家に相談するのもアリ
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